グローバル化が加速する現代社会において、東京都教育委員会は様々な国際教育プログラムを展開し、世界で活躍できる人材の育成に力を入れています。Global Education Network 20(GE-NET20)による特色ある教育活動、英語教育推進校での実践的な語学教育、海外学校との活発な国際交流など、多層的なアプローチで国際教育を推進しています。
また、都立国際高校を筆頭に、三田高校、竹早高校、日野台高校での帰国子女受入れ、さらには各校での留学生の受入れ拡大など、多様な背景を持つ生徒が共に学べる環境づくりも進めています。本稿では、都立高校における特色ある国際教育の取り組みについて、その全体像をご紹介します。
1. スーパーグローバルハイスクール(SGH)- グローバル人材育成の拠点
【廃止】スーパーグローバルハイスクール(文部科学省指定:SGH)とは?
スーパーグローバルハイスクール(SGH)は、文部科学省が2014年度から実施した事業です。グローバル化が進む社会の課題解決に向けて、主体的に行動できるグローバルリーダーの育成を目指しています。高校生が、社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力等を身につけ、将来、国際的に活躍できる人材となることを目的としていました。
スーパーグローバルハイスクール(SGH)ネットワークの継続 ※国の事業としては廃止もネットワーク化継続
SGHは事業としては終了しましたが、その成果を継続的に発展させるため、2021年度から「SGHネットワーク」として新たな展開を見せています。このネットワークは、国際理解教育及び外国語教育の水準のさらなる維持向上を図り、イノベーティブなグローバル人材育成の取り組みを推進することを目的としています。参加校は文部科学省主催の全国高校生フォーラムやWWL・SGH連絡協議会への参加等を通じて、グローバル人材育成の実践を継続しています。
都立高校におけるSGH校の取り組み
東京都では国立4校と私立9校がSGHネットワークに参加していますが、都立高校においては参加校はありません。なお、都立高校では独自のGlobal Education Network 20(GE-NET20)を展開し、特色あるグローバル教育を実施しています。
2. Global Education Network 20(GE-NET20)- 国際色豊かな学校づくり
GE-NET20とは?
東京都教育委員会は、東京グローバル人材育成指針に基づき、先進的な取り組みを推進する20校を「Global Education Network 20」として指定しています。この20校は特色を生かした3つのグループに分かれて活動を展開しています。
- 【学問・探究グループ】(10校)
日比谷、白鷗、深川、富士、西、戸山、大泉、八王子東、南多摩中等教育学校、武蔵野北の各高校が、外国語をツールとして活用しながら、探究的な学びを深めています。 - 【対話・理解グループ】(7校)
小石川中等教育学校、三田、三鷹中等教育学校、国際、飛鳥、立川国際中等教育学校、小平の各高校が、留学生との交流を通して、自己の確立や世界の一員としての自覚を促す教育を行っています。 - 【実地・協働グループ】(3校)
大田桜台、千早、町田工業の各高校が、国内外の多様な他者と、ものづくり等の協働を通して、社会貢献や地域貢献等に取り組んでいます。
指定校における教育プログラム
GE-NET20指定校では、以下のような特徴的な取り組みを実施しています。
- JET青年の複数配置による英語教育の充実
- 生徒対象のオンライン英会話研修の実施
- 外部検定試験受験への支援
- SDGs等の国際課題に関する研究活動と成果発表
- 海外の学校との継続的な交流活動
- 海外での語学研修の実施
- 大使館や大学等の外部機関との連携による交流
- 海外大学進学に向けた支援体制の構築
3. 都立高校における英語教育推進校
英語教育推進校とは?
令和4年度より、生徒の英語によるコミュニケーション能力の向上を図るために、30校の英語教育推進校が指定されています。特に「聞く」「話す」の技能に重点を置いたきめ細かい指導を行い、英語教育を先導することを目的としています。
主な取り組み内容
- 授業時間や放課後を活用したICTによるオンライン英会話
- 習熟度別の少人数授業の実施
- 英語スピーチコンテストやディベート大会の開催
- 外部検定試験の活用による英語力の向上
- ALTとの協働による実践的なコミュニケーション活動
- 英語合宿や短期留学などの体験的学習の機会提供
英語教育推進校の指定を受けている都立高校
進学指導重点校
国立高校、青山高校、立川高校
進学指導特別推進校
国分寺高校、小松川高校 、新宿高校、町田高校、小山台高校、駒場高校
進学指導推進校
竹早高校、江北高校、上野高校、城東高校、調布北高校、日野台高校、昭和高校、小金井北高校、多摩科学技術高校
その他高校
両国高校、小岩高校、杉並高校、狛江高校、田園調布高校、目黒高校、桜修館中等教育学校、成瀬高校、松が谷高校、翔陽高校、保谷高校、福生高校
5. 都立国際高校:都立唯一の”国際科”かつ”国際バカロレア・ディプロマプログラム認定校”
学校の特色
1989年に設立された都立高校唯一の国際学科を持つ高校です。海外からの帰国生徒や在京の外国人生徒が全校生徒の約3割を占め、その出身国は40カ国以上に上ります。2015年には公立高校で初めて国際バカロレア・ディプロマプログラムの認定校となり、国際教育のパイオニアとしての地位を確立してきました。
校章は世界の国家、民族をイメージさせる地球をモチーフに、人と人とが手を結び合わせている様子を表現しています。「Keep Learning, Keep Changing, and Keep Smiling」をモットーに、開校以来「パイオニア精神」を大切にしています。
国際理解教育の実践
国際感覚を持つ人材の育成と難関大学への進学実績の両立を実現しています。具体的な取り組みとして、下記のようなプログラムを実施しています。
- 少人数制の語学授業と習熟度別クラス編成
- 全校生徒による年度初めのTOEIC L&R IPテスト受験
- SAT・TOEFL対策による海外大学進学支援(毎年10~20名が海外大学進学)
- 1年生対象の英語サマーキャンプ(ESCA)実施
- 学年ごとのスピーチコンテスト開催
- 5月の体育祭、9月の文化祭(桜陽祭)など、国際色豊かな学校行事
6. 帰国子女の受け入れを行っている都立高校
国際高校、三田高校、竹早高校、日野台高校の4校で帰国子女の受け入れを実施しています。
国際高校
現地校出身者25名、日本人学校出身者15名を募集(2024年度)。国際バカロレア認定校として、国際教育と進学実績の両立を実現しています。
三田高校
ユネスコスクールとして18名を募集(2024年度)。国際理解教育の分野で長い歴史と活動実績があり、約60名の帰国子女が在籍。年間を通じて海外から多くの高校生や教員が訪問し、日常的な異文化交流の場となっています。
竹早高校
進学指導推進校。「授業第一主義」を掲げ13名を募集(2024年度)。平日19時まで利用できる自習室や卒業生による「竹早塾」など、充実した学習支援体制を整備。難関大学進学に向けた手厚い指導を実施しています。
日野台高校
進学指導推進校。13名を募集(2024年度)。SDGsの17のゴールに関連した探究的な学びを提供し、進学指導と国際教育の両立を図っています。
7. 都立高校における国際交流事業
海外学校との交流活動
都教育委員会では、豊かな国際感覚を身につけ、世界をけん引していく人材の育成に向け、様々な形態の国際交流を推進しています。平成28年度以降、「姉妹校交流推進校」、平成30年度からは「海外学校間交流推進校」を指定し、各校の特色を活かした国際交流活動を支援しています。
具体的な活動として、下記のようなプログラムが実施されています。
- 姉妹校提携による相互訪問プログラム
- オンラインを活用した国際交流
- 海外修学旅行における現地校との交流
- 短期留学生の派遣と受入
- 国際文化祭の開催
- 共同研究プロジェクトの実施
留学生の受け入れ
より多くの都立高校で日本にいながら国際交流の機会を得られるよう、海外からの留学生の受入拡大を推進しています。令和4年度からは、英語圏だけでなく様々な国や地域から留学生を受け入れ、多文化共生の意識や豊かな国際感覚の醸成を図っています。
また、東京都国際交流リーディング校として25校を認定し、国際交流のモデル校として他の都立学校の国際交流に対する意識喚起や機運醸成を促進しています。
都立高校における国際教育の特色 – 多層的アプローチによるグローバル人材の育成
都立高校の国際教育は、複数の特色あるプログラムを通じて多層的に展開されています。その中核となるのが、GE-NET20による学問・探究、対話・理解、実地・協働の3つの特色グループでの展開です。さらに、英語教育推進校30校による実践的な語学教育の推進、国際交流リーディング校25校を中心とした国際交流の活性化が行われています。また、都立国際高校をはじめとする4校での帰国子女受入れ、海外学校間交流推進校による継続的な国際交流など、各校の特色を活かした国際教育を実現しています。これらのプログラムは相互に連携しながら、体系的な国際教育の基盤を形成しています。
今後の展開としては、都立高校は、Society 5.0時代のグローバル人材育成を見据え、さらなる国際教育の充実を目指しています。オンラインを活用した国際交流の拡大、より多くの国・地域からの留学生受入れ、海外大学進学支援の強化を進めるとともに、SDGsなど国際的な課題解決に向けた教育プログラムの充実や産学官連携による国際教育の推進も図っています。このように、都立高校における国際教育は、複数の施策や制度を組み合わせることで、多様な生徒のニーズに応える体制を構築しています。各校の独自性を活かしながら、世界で活躍できる人材の育成を目指した教育実践を重ね、時代の要請に応じた柔軟な対応と、さらなる発展を続けています。