東京都教育委員会より「令和7年度東京都立高等学校入学者選抜受検状況」が発表されました。
令和7年度東京都立高等学校入学者選抜受検状況
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/02/2025022108
令和7年度(2025年度)の東京都立高校入学者選抜において、専門学科全体の受検倍率は0.93倍と募集人員を下回りましたが、学科間・学校間での格差が著しい状況となりました。
立川高校創造理数科の4.20倍や工芸高校デザイン科の2.04倍、駒場高校体育科の2.21倍など一部の特色ある専門学科では高い人気を集める一方、多くの工業系学科や福祉系学科では志願者不足が深刻化しています。以下、学科ごとの受験倍率を見ていきます。
商業、ビジネスコミュニケーションに関する学科の一般入試受検概況 | 高校別募集人数・受検人数・受検倍率

全体的な傾向
商業系学科全体としては倍率が低下傾向にあり、多くの学校で募集人数をわずかに上回るか下回る状況となっています。ビジネス科では第五商業の1.30倍、葛飾商業高校の1.04倍、ビジネスコミュニケーション科では千早高校の1.21倍が比較的高い数値となっていますが、全体的には1.0倍前後の低い競争率にとどまっています。
個別学校の状況
- 葛飾商業高校
最終応募倍率1.11倍と安定した志願状況で、受検倍率1.04倍と前年比+0.08ポイント上昇となりました。受検人数131人で前年から10人増加しています。 - 第五商業高校
最終応募倍率1.20倍と人気が上昇し、受検倍率1.30倍(前年比+0.11ポイント上昇)と商業系学科内で最も高い倍率となりました。 - 大田桜台高校(ビジネスコミュニケーション科)
受検倍率0.67倍と極めて低く、募集人数を下回っています(前年比-0.22ポイント減少)。受検人数も70人で前年から23人減少となりました。 - 千早高校(ビジネスコミュニケーション科)
受検倍率1.21倍と前年比+0.06ポイント上昇しました。受検人数は153人で前年から8人増加し、商業系学科の中では比較的安定した人気となっています。 - 第三商業高校
受検倍率0.84倍と前年比-0.32ポイントの大幅減少となりました。受検人数も88人で前年から34人減と著しく減少しています。 - 第一商業高校:
受検倍率0.78倍と募集人数を下回りました(前年比-0.06ポイント減少)。受検人数も98人で前年から25人減少しています。
商業系学科全体として、前年度と比較して志願者数が減少傾向にあり、商業教育の需要低下や進路選択の多様化が影響していると考えられます。定員割れとなっている高校もあり、今後の学科再編や特色化が課題となる可能性があります。一方、葛飾商業や第五商業、千早高校など一部の学校では倍率が1.0倍を超えており、地域性や学校の特色が志願動向に影響していることがうかがえます。
工業に関する学科の一般入試受検概況 | 高校別募集人数・受検人数・受検倍率

高倍率の学科
- 工芸高校のデザイン科
受検倍率2.04倍と工業系学科内で最も高い倍率となりました。前年と同等の高い人気を維持しています。また最終応募倍率も2.12倍と芸術系専門学科として突出した人気を誇っています。 - 工芸高校のアートクラフト科
受検倍率1.52倍と高い水準(前年比+0.32ポイント上昇)となっています。最終応募倍率も1.52倍と安定した人気となっています。 - 工芸高校のマシンクラフト科
受検倍率1.40倍と前年比+0.32ポイント上昇となりました。受検人数は35人で前年から8人増加となっています。 - 墨田工科の自動車科
受検倍率1.43倍と工業系の学科の中では比較的高い倍率(前年比+0.33ポイント上昇)となっています。受検人数は30人で前年から5人増加しました。
低倍率の学科
- 杉並工科のIT・情報科
受検倍率0.22倍と極めて低く、工業系で最低の場入りとなっています。前年比-0.10ポイント減少し、受検人数は26人で前年から7人減少しました。 - 練馬工科のキャリア技術
受検倍率0.60倍(前年比-0.68ポイントの大幅減少)と低下しました。受検人数は53人で前年から60人減と著しい減少となっています。 - 蔵前工科の設備工業
受検倍率0.23倍と非常に低く前年比-0.22ポイントの減少となりました。受検人数は5人で前年から4人減少しています。
全体的な傾向
工業系学科全体としては、倍率1.0倍を下回る学科が多く、定員割れが顕著です。デザインやアートクラフトなど一部の芸術系専門学科、自動車科などの特定の専門性の高い学科を除き、多くの伝統的な工業系学科(機械、電気、建築など)では応募者数が減少傾向にあります。
特に杉並工科、総合工科、荒川工科、葛西工科、田無工科などの学校では複数の学科で定員割れが発生しており、工業教育全体の見直しが必要な状況です。一方で府中工科の情報技術科(1.71倍)、機械科(1.05倍)や多摩工科の機械科(1.14倍)など、地域によっては一定の需要を維持している学科も見られます。
工業系学科全体として、産業構造の変化や進路選択の多様化に伴い、従来型の工業教育から時代のニーズに合わせた特色ある専門教育への転換が求められていることがうかがえます。
農業に関する学科の一般入試受検概況 | 高校別募集人数・受検人数・受検倍率

高倍率の学科
- 園芸高校の動物科
受検倍率2.48倍(前年比+0.48ポイント)と農業系学科内で最も高く、全専門学科の中でも上位となっています。受検人数62人で前年から12人増加しました。最終応募倍率も2.52倍と極めて高い人気となっていました。 - 瑞穂農芸高校の畜産科学科
受検倍率1.80倍と高い水準となっており、前年比+0.88ポイントと大幅上昇しました。受検人数45人で前年から22人増加。最終応募倍率も1.80倍と安定した高い人気となっています。 - 農産高校の都市園芸科
前年比-0.72ポイントと減少しましたが受検倍率1.57倍と依然として高い水準となっています。受検人数は33人で前年から15人減少となりました。 - 農産高校の食品科学科
受検倍率1.67倍と高い水準(前年比-0.28ポイント減少)。最終応募倍率1.71倍と高い人気を維持しています。
全体的な傾向
農業系学科全体としては、多くの学科で受検倍率が1.0倍を上回っており、他の専門学科(特に工業系)と比較して安定した志願状況を示しています。動物科や食品科学科など、現代の農業や食品産業に関連する学科で特に人気が高い傾向が見られます。
園芸高校、農産高校、瑞穂農芸高校の3校とも、概ね安定した志願者数を維持しており、都市部における農業教育の需要が一定程度あることがうかがえます。特に園芸高校の動物科や農産高校の食品科学科などは、前年度からさらに人気が上昇または安定していることが特徴的です。
農業系学科では、食品科学や都市園芸など、現代の社会ニーズに合わせた特色ある専門教育が志願者に支持されていると考えられます。また、いずれの学科も募集人数が比較的少数(21〜49人程度)であることも、倍率の安定に寄与している可能性があります。
その他専門学科の一般入試受検概況 | 高校別募集人数・受検人数・受検倍率

特に高倍率の学科
- 立川_創造理数科
受検倍率4.20倍と全専門学科の中で最高倍率(前年比+1.76ポイントと大幅上昇)となっています。受検人数は147人で前年から64人増加しています。尚、最終応募倍率も4.51倍と突出した人気を誇っています。 - 駒場_体育科
受検倍率2.21倍と高い水準(前年比+0.67ポイント上昇)となりました。受検人数は62人で前年から19人増加しました。 - 総合芸術_美術
受検倍率2.16倍と高い水準(前年比+0.05ポイントとわずかな上昇)となっています。受検人数121人で前年から3人増加しました。最終応募倍率も2.23倍と安定した高い人気となっています。 - 国際高校_国際に関する学科
受検倍率1.50倍と比較的高い倍率となっています。前年比-0.49ポイント減少しましたが、依然として人気学科です。受検人数は147人で前年から48人減少しています。
特に低倍率の学科
- 八丈_農業・家政
受検倍率0.03倍と全専門学科中最低倍率となっています。前年比-0.08ポイントで減少しており、受検人数はわずか1人で募集人員35人に対して著しい定員割れとなっています。島しょ部の特殊性を反映した結果となりました。 - 野津田_福祉
受検倍率0.24倍と極めて低い倍率となりました。前年比は-0.05ポイントの減少。受検人数は6人で前年から2人減少しました。 - 八王子桑子_ビジネス情報
受検倍率0.55倍と低い水準(前年比-0.37ポイント減少)となりました。受検人数23人で前年から22人減と大幅な減少となっています。
学科タイプ別の傾向
- 理数科
立川高校の創造理数科(4.20倍)が高い人気となっています。科学技術高校は1.04倍と前年比-0.42ポイントの減少となっています。 - 芸術系
総合芸術の美術(2.16倍)、八王子桑子のデザイン分野(1.19倍)など比較的高い人気となっています。 - 体育系
駒場高校の体育科(2.21倍)が突出した人気となっています。 - 福祉系:
野津田高校の福祉(0.24倍)と赤羽北桜高校の介護福祉(0.92倍)で大きな差があります。全体的に志願者が少ない傾向となっています。 - 国際系
国際高校(1.50倍)が一定の人気となっています。創造的な国際教育の需要を反映しています。
全体的な傾向
その他専門学科全体では、理数系、芸術系、体育系など、特色ある専門教育を提供する学科に志願者が集中する一方、家政系や福祉系などの学科では志願者不足が深刻な状況です。また、多摩科学技術高校のような科学系専門学校でも前年比で志願者が大幅に減少するなど、専門学科全体の再編や特色化が課題となっています。
地域による格差も顕著で、八丈高校のような島しょ部の高校では極端な志願者不足が見られる一方、立川や駒場など都心部に近い地域の専門学科は比較的高い人気を維持しています。創造的な教育内容や現代社会のニーズに合った専門性を持つ学科が志願者から支持される傾向が明確に表れています。
総合学科の一般入試受検概況 | 高校別募集人数・受検人数・受検倍率

高倍率の学校
- 杉並総合高校
受検倍率1.59倍と総合学科内で2番目に高い倍率となりました。前年比+0.05ポイントとやや上昇し、受検人数238人で前年から7人増加しました。 - 晴海総合高校
受検倍率1.53倍と高い水準となっています。前年比-0.51ポイントと減少したものの、依然として高い倍率です。受検人数は294人で前年から98人減少しています。最終応募倍率1.67倍と安定した人気となっています。 - 東久留米総合高校
前年比+0.34ポイント上昇し、受検倍率1.35倍と比較的高い倍率となりました。受検人数222人で前年から56人増加。最終応募倍率も1.42倍と人気上昇傾向です。 - 青梅総合高校
受検倍率1.20倍と安定した水準となっています。前年比-0.20ポイント減少の受検人数196人で前年から33人減少となっています。
低倍率の学校
- 世田谷総合高校
受検倍率0.88倍と募集人数を下回っています。前年比-0.08ポイントの減少となっており、受検人数145人で前年から12人減少しています。最終応募倍率も0.98倍と志願者不足となっています。 - つばさ総合高校
前年比+0.06ポイント上昇し、受検倍率0.96倍とわずかに募集人数を下回りました。 受検人数158人で前年から10人増加。最終応募倍率1.03倍とやや回復傾向にあります。 - 町田総合高校
受検倍率0.97倍とわずかに募集人数を下回りました。前年比-0.04ポイント減少となっており、受検人数は159人で前年から7人減少、最終応募倍率0.99倍と志願者不足の状況です。
全体的な傾向
総合学科全体としては、10校中6校が受検倍率1.0倍を上回り、4校が1.0倍を下回る結果となりました。晴海総合、杉並総合、東久留米総合など一部の人気校に志願者が集中する一方、世田谷総合、町田総合やつばさ総合などでは志願者不足が課題となっています。
前年度と比較すると、東久留米総合(+0.34ポイント)は倍率が上昇した一方、晴海総合(-0.51ポイント)や青梅総合(-0.20ポイント)などでは減少しており、志願動向に変化が見られます。
地域による格差も明確で、都心部に近い晴海総合や杉並総合などで高い倍率を維持している一方、多摩地区の町田総合などでは志願者確保に苦戦している状況がうかがえます。
総合学科は多様な進路選択が可能な特色を持ちますが、学校による教育内容や進路実績の差が志願動向に反映されていると考えられます。特に晴海総合や杉並総合などでは、普通科と専門学科の良さを併せ持つ総合学科のメリットが志願者に評価されていると思われます。
専門分野による明暗鮮明、理数・芸術系に人気集中も伝統的工業系は苦戦
2025年度の都立高校専門学科入試では、産業構造の変化や進路志向の多様化を反映した志願動向が顕著に表れました。商業系学科では第五商業高校(1.30倍)や葛飾商業高校(1.04倍)が比較的安定した志願状況を示す一方、第一商業や第三商業、第四商業など多くの学校では定員割れが生じています。
工業系学科では、工芸高校のデザイン科(2.04倍)やアートクラフト科(1.52倍)など芸術系の専門学科に人気が集中する一方、杉並工科のIT・情報科(0.22倍)や蔵前工科の設備工業科(0.23倍)など、従来型の工業教育に対する志願者は著しく減少しています。
農業系学科は比較的安定した状況で、園芸高校の動物科(2.48倍)や瑞穂農芸高校の畜産科学科(1.80倍)など、食や環境に関わる分野で高い人気を集めています。
その他の専門学科では、立川高校の創造理数科(4.20倍)、駒場高校の体育科(2.21倍)、総合芸術高校の美術(2.16倍)など特色ある教育を提供する学科に志願者が集中する一方、野津田高校の福祉(0.24倍)や八丈高校の農業・家政(0.03倍)など、福祉系や島しょ部の専門学科では極端な志願者不足が続いています。
総合学科については10校中6校が受検倍率1.0倍を上回り、晴海総合(1.53倍)や杉並総合(1.59倍)など一部の学校に人気が集中していますが、世田谷総合(0.88倍)など志願者が不足している学校も見られます。
専門学科全体として、現代社会のニーズに合った特色ある教育内容を持つ学科・学校と、伝統的な専門分野を継承する学科・学校との間で志願状況の二極化が進んでおり、今後の専門教育の在り方や学科再編について重要な示唆を与える結果となりました。
<参照元>
ページ内のデータは東京都教育委員会発表資料・各高校のホームページやパンフレットを参照しています。しかしながら、参照したタイミングによっては速報データであったり、年度をまたぎ修正・変更となっている場合もありますので、正確なデータは東京都教育委員会、各都立高校の最新データをご確認ください。