都立高校のチャレンジスクールとは
チャレンジスクールは、小・中学校での不登校経験や高校での中途退学経験により、これまで能力や適性を十分に生かしきれなかった生徒が、自分の目標を見つけ、それに向かってチャレンジするための都立高校です。生徒一人一人の状況に応じて、きめ細かな支援を行い、将来の自立に向けた教育を提供しています。
設立の背景と目的
チャレンジスクールは、都立高校改革推進計画(平成9年度策定)における以下の課題に対応するために設置されました。
- 生徒の多様化への対応
- 社会経済の進展への対応
- 生涯学習社会への対応
- 少子化による生徒数の減少への対応
特に、生徒の能力・適性、興味・関心、進路希望の多様化に応えるため、将来の生き方を主体的に考える意欲を育てることを重視しています。
チャレンジスクールの主な特徴
入試について
チャレンジスクールの入試では、通常の高校入試のような学力検査は行わず、また中学校からの調査書も必要としません。代わりに、生徒の学習意欲や将来への展望を重視した選考を行います。具体的には面接と作文によって選考を実施し、これまでの学校生活や成績にとらわれることなく、一人一人の可能性を見出すことを大切にしています。また、面接では生徒の入学への意思を丁寧に確認し、入学後の学校生活をしっかりとイメージできるよう配慮しています。
学習システムについて
チャレンジスクールの学習システムは、基礎・基本を重視したカリキュラムを中心に据えながら、職業系の専門科目など幅広い選択科目を設置しています。授業は1クラス30人程度の少人数制を採用し、特に数学や英語では生徒の理解度に応じた習熟度別の授業を展開することで、一人一人の学習進度に合わせた丁寧な指導を実現しています。さらに、ICTを活用した新しい学習スタイルも取り入れ、生徒の理解を深める工夫を行っています。生徒は自分のペースで基礎から学び直すことができ、徐々に専門的な内容にチャレンジしていくことができます。
心のケアとサポート体制について
チャレンジスクールでは、生徒一人一人の心に寄り添うため、充実した支援体制を整えています。スクールカウンセラーによる定期的なカウンセリングや、教員による教育相談を実施し、生徒が抱える様々な悩みや不安に対応しています。また、ユースソーシャルワーカーや精神科医などの専門家が常駐し、専門的な見地からの支援も行っています。日々の学校生活においては、教職員が連携してきめ細かい生活指導を行うとともに、保護者との密接な連携を図り、家庭と学校が一体となって生徒の成長をサポートしています。
キャリア教育について
チャレンジスクールのキャリア教育は、将来の自立に向けた体系的な指導を特徴としています。1年次から段階的に進路指導を行い、生徒が自身の適性や興味を見つけ、具体的な目標を設定できるよう支援しています。また、実際の職場でのインターンシップを通じて、働くことの意義や職業に対する理解を深める機会を提供しています。これらの経験を通じて職業観を育むとともに、他者との関わりの中で社会性を身につけ、卒業後の進路実現に向けて着実に準備を進めていくことができます。
三部制(午前・午後・夜間)・単位制・総合学科の特徴
チャレンジスクールは、三部制・単位制・総合学科という3つの特徴的なシステムを組み合わせることで、生徒一人一人のニーズに柔軟に対応できる学習環境を実現しています。
三部制では、午前・午後・夜間の中から自分のライフスタイルに合った時間帯を選んで通学できるだけでなく、他の時間帯の授業も履修可能です。単位制では、学年の縛りがなく、自分のペースで必要な単位を修得しながら学習を進めることができます。そして総合学科では、普通科目から専門科目まで幅広い選択科目の中から、自分の興味や将来の進路に合わせて科目を選択することができます。これらのシステムを組み合わせることで、生徒それぞれの事情や目標に応じた、多様で柔軟な学びの場を提供しています。
これら3つの特徴について、それぞれの詳細を見ていきましょう。
三部制の特徴とメリット
- 午前部(Ⅰ部)、午後部(Ⅱ部)、夜間部(Ⅲ部)から選択可能
- 各部1日4時間(45分×4コマ)の授業を基本とし、自分のライフスタイルに合わせた通学が可能
- 他部の授業も履修可能で、3年間での卒業も目指せます
- 1日12時間の授業時間帯を活用した柔軟な時間割編成が可能
- 部活動や課外活動への参加機会の確保
単位制の特徴とメリット
- 学年による縛りがなく、自分のペースで学習を進められます
- 74単位の修得で卒業が可能
- 原級留置(留年)がありません
- 最長6年間(休学期間含む)の在籍が可能
- 学校外での学習成果の単位認定制度あり
- 他部履修による単位修得の可能性
総合学科の特色
- 普通科目と専門科目の両方を学ぶことができます
- 100以上の多様な選択科目
- 興味・関心に応じた科目選択
- 将来の進路に合わせたカリキュラム編成
- 実践的・体験的な学習の重視
- 系列に基づいた体系的な学習
都内のチャレンジスクール各校の詳細
桐ヶ丘高等学校
【学校URL】https://www.metro.ed.jp/kirigaoka-he/
【住所】東京都北区赤羽北三丁目5番地22号
東京都で最初に設置されたチャレンジスクールです。「丁寧・親身・チームワーク」を校風とし、開校以来、多くのノウハウを蓄積してきました。
【設置系列】
- 福祉・教養系列:福祉や教養に関する幅広い知識と技能を習得
- 情報・ビジネス系列:情報技術とビジネススキルを総合的に学習
- アート・デザイン系列:創造性を育む芸術教育を展開
【特徴的な取り組み】
- アットホームな校風づくり
- 体験学習の重視
- ボランティア活動の推進
- きめ細かな進路指導
世田谷泉高等学校
【学校URL】https://www.metro.ed.jp/setagayaizumi-he/
【住所】東京都世田谷区北烏山9-22-1
「だれでもいつでも学べる学校」をモットーに、新しい教育スタイル「世田谷泉2.0」を展開しています。
【設置系列】
- 生活・福祉系列
- 製作・技術系列
- 創作・表現系列
【特色ある取り組み】
- オンライン学習の積極的活用
- 柔軟な学習スタイルの提供
- 充実した相談支援体制
- 約50%の生徒が参加する活発な部活動
大江戸高等学校
【学校URL】https://www.metro.ed.jp/oedo-he/
【住所】東京都江東区千石3-2-11
2004年の江戸開府400年を記念して開校。江戸の伝統文化教育に特色があります。
【設置系列】
- 伝統・文化系列:江戸切子、江戸木彫、漆芸、箏曲など地域の伝統工芸を学ぶ
- 生活・福祉系列:衣食住や保育、介護の基礎を学習
- 情報・ビジネス系列:情報技術とビジネススキルを習得
【特徴的な教育活動】
- 伝統工芸士による直接指導
- 90台のパソコンを活用した情報教育
- 地域と連携した体験学習
- 幼稚園・保育園での実習体験
六本木高等学校
【学校URL】https://www.metro.ed.jp/roppongi-he/
【住所】東京都港区六本木六丁目16番36号
ユネスコスクールとして、ESD(持続可能な開発のための教育)を推進しています。
【設置系列】
- 芸術・カルチャー系列
- 生活・ウェルネス系列
- 情報・サイエンス系列
【特色ある教育活動】
- 100以上の自由選択科目
- ESDの視点を取り入れた授業展開
- 充実した教育相談体制
- ストレス対処法の学習
稔ヶ丘高等学校
【学校URL】https://www.metro.ed.jp/minorigaoka-he/
【住所】東京都中野区上鷺宮5-11-1
「勁い心」「自立した未来」を育てることを目標としています。「勁い」は、しなやかでありながら強い心を表現しています。
【設置系列】
- 情報・デザイン系列
- ビジネス・コミュニケーション系列
- 人間・環境系列
【特徴的な取り組み】
- コーピングメソッドの実施
- みのりゼミ(少人数での発展的学習)
- マイレージ制度(体験活動の単位認定)
- 充実した体験学習
小台橋高等学校
【学校URL】https://www.metro.ed.jp/odaibashi-he/
【住所】東京都足立区小台2-1-31
令和の時代にふさわしい新しいタイプのチャレンジスクール。「大学や会社を先取りした高等学校」をコンセプトとしています。
【設置系列】
- 情報・ビジネス系列
- アート・デザイン系列
- 人文・自然系列
【特色ある取り組み】
- 最新の校舎・設備
- キャリア教育の重視
- ゼミナール形式の学習
- 本物体験を重視した教育活動
立川緑高等学校(令和7年度開校)
【学校URL】https://www.metro.ed.jp/tachikawa-challenge-he/
【住所】東京都立川市錦町6-3-1
多摩地区初のチャレンジスクールとして、新たな学びのスタイルを提案します。
【設置予定系列】
- 生活・文化系列
- アート・デザイン系列
- 人文・自然系列
【計画されている特徴】
- 校内居場所カフェ(サードプレイス)の設置
- デジタル技術を活用した学習支援
- 社会につながる学びの重視
- 実践的・体験的な教育活動
充実した学習支援体制
少人数制できめ細かな指導
チャレンジスクールでは、生徒一人一人の学習状況に応じた丁寧な指導を実現するため、以下のような体制を整えています。
- 1クラス30人の少人数制を採用
- 習熟度別授業(特に数学・英語で実施)
- 基礎・基本を重視した学習カリキュラム
- 個別の学習相談や支援の実施
- 各教科における学び直しの機会提供
- ICTを活用した個別学習支援
特徴的な教育プログラム
1. コーピングメソッド
コーピングメソッドは、早稲田大学人間科学学術院との共同開発による必修科目として実施されています。この授業では、生徒が日常生活で経験する様々な感情への対処方法を学び、物事を多角的に捉える認知面での対応力を養います。また、具体的な行動スキルの習得を通じて、ストレスを適切に管理する能力を育成します。さらに、これらの学びを通じて円滑な人間関係を築く力を身につけることで、社会生活を送る上で必要な総合的なスキルを習得することができます。
2. 構成的グループエンカウンター
チャレンジスクールでは、構成的グループエンカウンターを通じた集団学習体験を重視しています。この取り組みでは、グループでの活動を通じて自分自身への理解を深めると同時に、他者の考えや感情を理解する力を育みます。また、グループ内で適切に自己主張する経験や、ありのままの自分を受け入れる体験を重ねることで、自己肯定感を高めていきます。さらに、仲間との信頼関係を築く体験や、他者の気持ちに寄り添う感受性を養うことで、豊かな人間関係を築く基礎を培っています。
3. キャリア教育
チャレンジスクールでは、将来の自立に向けて段階的なキャリア教育を実施しています。1年次から計画的に職業観を育成し、生徒が自身の適性や興味に基づいて進路を選択できるよう、きめ細かなガイダンスを行っています。また、実際の職場でのインターンシップ体験を通じて、働くことの意義や職業に対する理解を深める機会を設けています。
日々の学校生活では、コミュニケーション能力や協調性といった社会人として必要な基礎力を養成するとともに、生徒の希望する進路に応じた資格取得のサポートも行っています。これらの体系的な指導により、卒業後の自立した生活に向けた準備を着実に進めていきます。
心のケアと支援体制
専門家による包括的支援
生徒一人一人の心に寄り添う支援体制として、以下の専門家を配置しています。
スクールカウンセラー
チャレンジスクールでは、スクールカウンセラーが重要な役割を担っています。カウンセラーは生徒一人一人の心に寄り添い、学校生活や将来への不安、人間関係の悩みなど、様々な相談に専門的な立場から対応しています。また、生徒への適切な支援のため、教職員に対して専門的な見地からアドバイスを行うとともに、保護者の相談にも応じ、家庭と学校の橋渡し役も務めています。さらに、生徒の状況について必要な情報を収集・共有し、教職員と連携しながら包括的な支援体制の構築に貢献しています。
ユースソーシャルワーカー(YSW)
ユースソーシャルワーカー(YSW)は、生徒の社会的自立に向けた包括的な支援を行っています。就職を希望する生徒への就労支援はもちろん、生活面での課題を抱える生徒や家庭に対する福祉的な支援も実施しています。また、学校生活に困難を感じる生徒に早期に関わることで中途退学の防止に努め、不登校傾向のある生徒に対しては、個々の状況に応じた柔軟な支援を提供しています。さらに、生徒が自分に合った進路を見つけられるよう、一人一人の状況や希望に寄り添いながら、具体的な進路決定に向けたサポートを行っています。
精神科医(学校医)
チャレンジスクールでは、精神科医が学校医として配置され、生徒の心身の健康に関する専門的な支援を行っています。メンタルヘルスの専門家として、生徒一人一人の状態を医学的な見地から評価し、必要に応じて適切な助言を行います。また、専門的な医療が必要な場合には、地域の医療機関と連携して適切な支援につなげています。さらに、教職員に対しても、生徒への関わり方や支援方法について専門的な立場から指導・助言を行い、学校全体での効果的な支援体制の構築に貢献しています。
自立支援チーム
チャレンジスクールの自立支援チームは、生徒一人一人の状況に応じた個別支援計画を作成し、計画的できめ細かな支援を展開しています。支援にあたっては、福祉機関や医療機関、ハローワークなど、様々な関係機関と密接に連携を図り、生徒の抱える課題に総合的に対応しています。また、定期的な面談や状況確認を通じて継続的な支援を実施し、必要に応じて家庭訪問等のアウトリーチ活動も行います。このように、学校内外の支援を組み合わせることで、生徒の社会的自立に向けた包括的なサポートを実現しています。
教育相談体制の特徴
入学前からの支援
チャレンジスクールでは、生徒が安心して高校生活をスタートできるよう、入学前から手厚い支援体制を整えています。入学が決まった生徒については、中学校と緊密に連携を図り、一人一人の状況や必要な支援について丁寧な引継ぎを行います。また、入学準備説明会では個別面談の機会を設け、生徒や保護者の不安や要望を細かく聞き取ります。この際、保護者とも必要な情報を共有し、家庭と学校が協力して生徒を支援できる体制を整えています。さらに、中学校とも継続的に連携を図り、入学後の支援に必要な情報を収集することで、円滑な高校生活への移行を支援しています。
在学中の支援
チャレンジスクールでは、在学中の生徒に対して複層的な支援体制を構築しています。担任による定期的な個別面談を実施し、学習面や生活面での課題を早期に発見・対応するとともに、カウンセリングルームを常時開放して、生徒が気軽に相談できる環境を整えています。また、心身の健康管理については養護教諭が中心となり、きめ細かなケアを行っています。
さらに、支援が必要な生徒については教育支援委員会で具体的な支援策を検討し、保護者とも密接に連絡を取り合いながら、生徒の成長をサポートしています。このように、様々な専門職が連携することで、生徒一人一人の状況に応じた適切な支援を提供しています。
進路支援と将来への取り組み
多様な進路選択への対応
チャレンジスクールでは、生徒の希望に応じて以下のような進路選択が可能です。
進学支援
チャレンジスクールでは、生徒の希望に応じた多様な進路実現をサポートしています。四年制大学への進学を目指す生徒には、大学入学共通テストに向けた対策や個別の受験指導を実施し、基礎から応用まで段階的な学習支援を行っています。短期大学や専門学校への進学を希望する生徒に対しても、それぞれの入試制度に応じた準備や対策を丁寧に行い、志望校合格に向けたサポートを提供しています。さらに、個別の受験指導を通じて、生徒一人一人の学力や目標に合わせた指導を行い、着実な進路実現を支援しています。
就職支援
チャレンジスクールでは、就職を希望する生徒に対して体系的な就職支援を実施しています。まず職業適性診断を通じて生徒の適性や興味を客観的に分析し、進路選択の指針としています。就職活動に向けては、実践的な面接指導を行うとともに、履歴書の作成についても一人一人の経験や特徴を活かした丁寧な支援を行います。また、実際の職場をイメージできるよう企業見学を実施し、働くことへの理解を深める機会を設けています。さらに、ハローワークと連携することで、より多くの就職機会の提供と、専門的な就労支援を実現しています。
キャリア形成支援
チャレンジスクールでは、生徒のキャリア形成を支援するため、実践的な体験機会を多く設けています。実際の職場でのインターンシップを通じて働くことの実際を学び、様々な分野で活躍する職業人による講話では具体的な仕事のイメージを深めることができます。また、企業見学会では実際の職場環境や働く人々の様子を直接見ることができ、職業選択の参考となっています。さらに、卒業生との交流会を通じて、先輩の経験談を聞いたり実際の進路について相談したりする機会も設けています。これらの活動を通じて、コミュニケーション能力や責任感、チームワークなど、社会人として必要な基礎力を育成しています。
チャレンジスクールで広がる可能性
チャレンジスクールは、これまでの学校生活で悩みを抱えていた生徒たちに、新たな可能性を開く学校です。三部制・単位制・総合学科という柔軟な学校システム、少人数制できめ細かな指導、充実した相談体制、そして生徒一人一人のペースを大切にした学習環境により、自分らしい目標に向かってチャレンジできる場所となっています。
不登校や中途退学の経験は、決してマイナスではありません。むしろ、その経験を通じて得た気づきや学びを、新たな出発点として活かすことができます。チャレンジスクールでは、「今までよりもこれから」という考えのもと、生徒一人一人の未来に向けた挑戦を、学校全体でサポートしています。
自分のペースで学べる環境、親身になって支援してくれる教職員、同じような経験を持つ仲間との出会い—これらすべてが、新たな一歩を踏み出すための大きな支えとなるでしょう。チャレンジスクールは、そんな生徒一人一人の「チャレンジ」を全力で応援する学校なのです。